河野太郎が防衛大臣だったときにアメリカのCSIS(戦略国際問題研究所)で行った、英語でのスピーチの冒頭で次のように言いました。
「前回は外務大臣としてこちらに来ました、今回は防衛大臣として戻って来ました、来年はたぶん総理大臣として来るでしょう」
これを聞いた会場は爆笑でした。掴みのジョークではありますが、主要な大臣を任されるくらい有能な人材というアピールにもなっています。政治の世界に限らず、このようなユーモアを交えた自己紹介というのは国際的なビジネスにおいても有効なテクニックとなります。
例えばあなたが資金調達を目指す起業家だったとしたら、米国資本のVC(ベンチャーキャピタル)向けのピッチではユーモアを交えると良いかもしれません。それによって投資家からお金を出してもらえる確率が高まることがあります。
アメリカ版『マネーの虎』=『シャークタンク』
アメリカABCの『Shark Tank(シャークタンク)』という番組があります。ビジネスアイデアを持った起業家が投資家たちの前でプレゼンをして、認められれば出資してもらえるという内容です。
かつて日本テレビで放送された『¥マネーの虎』と似ていると思ったかもしれませんが…。実は『¥マネーの虎』のフォーマットを輸入しているのです。
日本版では投資家を「虎」と呼んでいましたが、『シャークタンク』では「サメ」と呼びます。サメと起業家たちの熱いバトルが繰り広げられるこの番組は大人気コンテンツとなっています。
ユーモアを交えた起業家の方が出資されやすい
そんな『シャークタンク』ではいったいどのような起業家が出資を受けやすいのでしょうか?
それを調べたのがインペリアル・カレッジ・ロンドンのジウン・パイ博士らです。博士らが一つの基準としたのがピッチの中で見られるユーモアです。
『シャークタンク』のシーズン1から4までの154のピッチを分析し、どのようなユーモアが表現されているかと出資されたかどうかを分析しました。
その結果、自己をアピールする際にユーモアを交えた起業家はそうしなかった起業家よりも有意に高い確率で出資を受けられるていることが分かったのです。
謙虚さを有能さを同時に伝えることができる
勘違いしないでほしいのは単に面白いことを言えば出資されやすくなるということではありません。
自分をアピールする際に肯定的にユーモアを使用しなければ意味がないのです。自分や他人を貶めるような冗談を言っても出資はしてもらえません。
なぜ自分を肯定的に表現するようなユーモアが有効なのでしょうか?
それは自己㏚が鼻につかないからです。
出資をしてもらうには自分とそのビジネスモデルがいかに素晴らしいかを主張しなければなりません。しかし、それを一方的にやってしまうと尊大な人間と思われてしまいます。そして嫌われます。
だからといって謙虚になりすぎると、有能と評価してもらえなくなります。このパラドックスを解消するのがユーモアなのです。
ユーモアを交えて自己㏚することで謙虚さと有能さを同時に伝えられるため、投資家がお金を出したい気持ちになりやすいということです。
☑︎ブラックストーン・グループの会長が採用面接で行う「空港テスト」とは
日本ではおすすめできない…
ユーモアが言えるというのは創造力があるということの証明にもなります。創造力は人間が生きる上で重要な能力であるため、高く評価されやすいのです。
実際に投資家に対するピッチだけではなく、就職のための面接でも自己を肯定的に伝えるユーモアが高評価につながることが分かっています。
特に英語圏では高い評価を得やすいです。アメリカとビジネスをするときはぜひユーモアを使いましょう。
ちなみに日本ではあまりオススメしません。ふざけた人間と思われかねないですし、ウィットに富んだジョークを理解できない人も多いです。
また、女性の場合は面白いことを言おうとしただけで低評価されるケースもあると研究で判明していますので注意してください。
参考文献:Pai, J., Chou, E. Y., & Halevy, N. (2023). The Humor Advantage: Humorous Bragging Benefits Job Candidates and Entrepreneurs. Personality and Social Psychology Bulletin, 0(0).